加藤周一の『日本文学史序説』

9月から今月にかけては何年かに一度の本の虫干しをしていた。
どかどか大量抹殺していると買ったことを忘れた本も出てくるもんであって、その中の1つがこれ。
ちくま学芸文庫にずっと昔から入っていて漠然とすごい本なんだろうなとは思ってたけど実際読み始めると笑っちゃうくらい凄い。

日本文学史と言っても漱石あたりから始まる近現代小説を扱っているのではなく、万葉集と古事記から始まる。そして文学史のタイトル通り作品の成立に影響を与えた当時の歴史的・社会的情況、さらに著者のパーソナリティも想像力豊かに描出されていてすらすらと読めてしまう。
どんな記述でも教科書的な紹介に堕している部分が一切なく、序文で述べられている日本文学における歴史的法則に基づいてはっきりと言い切っている。

それぞれの文学作品が成立した背景・条件も懇切丁寧に論じられているのでもはや文学史の枠を越えている。一種の日本論であり、日本人論であり、日本語論であり、日本思想史であり、日本宗教史でもある。なんだかんだ言っても昭和の文芸批評家は凄かったのがわかる。

今やっと上巻の半分、鎌倉時代まで読み終わったところだけどここまでで既に聖徳太子の十七条憲法に始まり万葉集や古事記と言った古代の歴史的資料に文学批評の眼が向けられるところから開始し、そして空海・最澄の初期仏教、竹取物語のような古代文学、日本霊異記・今昔物語のような民衆のための物語、源氏物語や古今集の平安文学、浄土宗から禅宗までの鎌倉仏教、さらに武士の台頭への貴族側からの応答としての新古今集や鴨長明の隠者文学、そして平家物語と思いつく限りすべてが網羅されていて、そのすべてがきっちり一本の芯が通って解説される。狂気の本。一方で建礼門院右京大夫といった今まで知らなかった著者もいて関心を惹かれる(非常に好きになる気がする)。

僕はもともと植芝理一でアジアや日本の呪術的で神秘的なモチーフに惹かれてこの世界に足を踏み入れて、そのあと西洋哲学から吉本隆明を経由し最近はまた日本的なものにより関心が深いんだけど(京都旅行するといくら勉強してもまだまだ勉強足りないな~と思わされる)、ここまで総合的な本が存在してたとは思わなかった。これはたぶん20代じゃ読めなかったな。ちびちび読み進めてるので今月はこれで終わりそう。