去年の夏頃、なんとなく直感で買った浅海まいさんの『ゴーストレート・ショット・ツアー』という一次創作同人誌の百合漫画が面白くて、あとがきで紹介されてたこのゲームも買った。なんとなくゲームやりたい気持ちだったから。実際はその頃まだゲーム離れしてて買ってすぐ積んだんだけど。
あらすじも百合とミステリ?みたいな文言が入ってたのだけ覚えててあとはぱっと目に入った印象が引っかって買ったんだけど、やっぱりだいたいこういう直感は間違わないな。一応言っとくと普段はジャンル的に百合追ったりは全然してなくて上の同人誌もなんとなくぱっと見で買った。
そういういきさつで買ってプレイしたので万が一この文章を読んでいて上のビジュアルで引っかかるものがある人はこのあと内容に触れてるのでその前に買ってください。Steam版とSwitch版しかないと思ってたけど(Steam版買った)、商業プラットフォームに移植される以前のdlsite版というがあってこっちだと660円とお安いらしい。
というか元は2016年のゲームなんだな。たぶん知る人ぞ知るくらいの知名度の作品だと思うんだけど、Switchに移植されていたり2023年現在もスピンオフの短編オーディオドラマが出たりと展開は続いてる。
内容は1990年代の日本を舞台にした(作中では携帯電話が出てこない)、あるカップルの女性2人+1人のパーソナルな出来事に関わる物語。
全体的にノスタルジックな雰囲気が漂っていて、テキストも演出も端正で静謐。絵も美麗で超画力ってわけじゃないけどこの作品にはマッチしてる。
テキスト面においてストーリーテリングと描写の2つが秀逸で、特に前者においては最初何が語られててどういう話なのかよくわからないまましばらく読み進めることになるんだけど、それぞれの語り手の視点から徐々に重なり合うことで、すべての情報を俯瞰できる読者にだんだんとパズルの全体像が浮かび上がっていく、という仕掛け。
記憶、過去、喪失、夢、幻覚、異界、非現実、精神医学や哲学といったあたりがモチーフになっていて、ときおり現実と非現実の境目がわからなくなったり、こちら側と向こう側が繋がったりする。ていうか俺本当にいつまで経ってもこういうふわふわした夢想的な話好きなんだな……。
直接的な影響元は村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』だろう。舞城なんかと同じく電話の使い方が完全に春樹フォロワー。
本来のジャンルであろう百合ノベルゲームとしてもちゃんと入り込めて良かった。上の通り作者の描写力が高く、テキストは地の文が多くて一般文芸や純文学に近い。女性2人の主人公の構図も少女小説系統の文芸なんかは読んできてたので入りやすかった。ジャンル内だと岩井俊二の女性主人公の映画みたいな空気感が近いのかな。
キャラクターの心理や日常の事物、人物の動作、情景描写がクロースアップのように細密に語られる文体が特徴的で、ストーリー上での展開の起伏は少なく、物語は常に抑制的で淡々とした語り口で進行する。たまに挿入されるエピソードに独特のセンスがあるんだけど(小学校の頃のあるあるネタとか)このあたりがライターの個性なんだろうな。
久しぶりにああ小説読むってこういうことだったなって思い出したりもした。個人的に引き合いに出すなら金井美恵子の小説を読んでる時の感覚と似てた。
全体を俯瞰してみるなら、かなり日本的な物語だと思う。
喪失感や切なさ、無常観みたいなものの描き方が日本文学の伝統的なラインに沿っている。海外での評価が高いらしいのもそういうところにあるのかもしれない。
べつに百合や同性愛に一家言あるわけでもないんだけど、パーソナルで狭い世界の中で語られる繊細な愛の形みたいなものに浸るのは心地良かった。そういった種々の愛の形がいろんな人の生を形作っていくのかもしれない。
あと最後に個人的な好みで言うなら、海外旅行のシーンがどれも良かった。
なんか本当にサンフランシスコとか行ってみたくなった。