メジャー作品サブスク化記念 朝日美穂ショートレビュー

メジャー作品サブスク化記念 朝日美穂ショートレビュー

朝日美穂さんのメジャー時代の作品がサブスクにリリースされました。
僕の青春の音楽を構成している一人なので非常によろこばしい事態です。

朝日美穂は1997年にソニーからメジャーデビュー、2枚のアルバムをリリースした後にインディーズに行き、現在も精力的に音楽活動中。
僕が長年に渡って聴き続けている高橋徹也と同世代で、よく似たルートを辿って活動しています。共演も多かったのでこの2人の古くからのリスナーはかなり被っているはず。

僕は昔からこの「90年代後半から00年代初頭にかけてメジャーデビューして2,3枚だけアルバム出した微妙にマイナーな括りのミュージシャン」枠に謎に惹かれ続けているんですが、朝日さんもまたこの括りの代表的な一人です。そのあたりは前にこれこれに書いた。
ネットの海から掘り起こしてきた2004年の2ch朝日美穂スレ(リンク)の74-75にはこの微妙な括りがたしかに存在していたことが証言されている(ここで挙げられてる人全員ライブラリにあってちょっと笑った)。近年のシティポップブームで再評価された具島直子の名前もある。

74 :70:04/12/29 02:01:56
>>71
もしよろしかったら朝日美穂、高橋徹也好きな人向けの、ここら辺のちょっとマニアックな邦楽でお薦めなのを教えてくださりませんか?
ちなみに俺はメジャーどころではヨシイロビンソンと浅井健一全般、曽我部恵一、オリジナルラブが好きでマイナーどころでは松崎ナオが好きです。
洋楽はプライマルスクリーム、レディオヘッドが好きで、ワールドはブリジットフォンティーヌ、エリスレジーナ、ロスバンバンあたりが好きなんですけれど。

75 :無名さん:04/12/29 02:29:14
向こうでもチラッと書いてますが小林建樹、岡北有由
両者ともどこか世界観にタカテツっぽさを感じます

あえて、少し冒険してみるなら小島麻由美、ジムノペディ
朝日さんとは毛色が違うけど、特にコジマユは朝日さんと甲乙つけがたいくらいにセンスがイイ!!

フォークが好きなら個人的に今一番の注目株はきたはらいくです
朝日さんの『しあわせをうたおう』やタカテツの『いつだってさよなら』を気に入るようなら
確実に好きになれるミュージシャンだと思います

落ち着いて聴ける音楽が良ければ具島直子、葛谷葉子
両者ともCDの入手は難しいと思いますが、苦労する価値は十二分にあるはずです

最後にすでに解散してますが、Pizzicato Five、真心ブラザーズ
この二組に関しては何も語る必要はないかと

あるいはいろいろ検索していて見つかった長年の共同制作者である高橋健太郎さんのインタビュー(リンク)によると、90年代後半はレコード会社から潤沢な予算が提供されていたのが、1999年頃を境に一気に崩れてメジャー契約を切られるアーティストが増えていったらしい(上に挙がっているアーティストもほぼ全員この頃にメジャー契約が終わっている)。

さて、時代性の話はこれくらいにして、朝日さんの音楽性は簡単に言えば、独自の感性を持ったちょっと変わったシンガーソングライターです。
一時期は川本真琴ともりばやしみほ(ハイポジ)と一緒にミホミホマコトというユニットもやっていたこともあって、この2人と並べると非常にしっくり来るものがある。
この人は特にサウンド面でのマニアックさに個性が現れるタイプで、メジャーの2作はいずれもアレンジが多彩かつ非常に高い完成度になっています。たしか楽器の知識も豊富だったはず。そういう意味ではカーネーションあたりとも親近性があると思う。

ジャンル的には弾き語りの他にファンクの要素がやや強く、岡村靖幸から一度曲提供を受けている他、日本で最初の岡村靖幸トリビュートを企画した人でもあります。

公式ディスコグラフィー

ONION(1998)

メジャー1st。部屋中に絆創膏が貼られた印象的なジャケット。

端的に言えば「かわいい声の変なポップス」の代表的なアルバム。
1曲目『momotie』にアルバムの世界観を圧縮されている。シュールな歌詞が特徴的な曲。

よくよく聴き込むとだいぶ変わった音作りの曲ばっかり並んでることに気付くんだけど、不思議とするっと聴ける。こういうところのセンスが傑出してる人だと思う。
また、僕が知る限りこういったキュート系の声の人の中では抜群に歌が上手い。フェイクが色っぽくて非常に格好いい。というか今聞くと岡村靖幸っぽさかなり感じる(1990年代から2000年代前半の岡村ちゃんはほぼ活動休止に近いくらい寡作だった)。

このあとだんだんマニアックな音楽性になっていきますが、この作品はポップセンスとサウンドの凝り方が絶妙なバランスになっていると思う。

Thrill March(1999)

音響的なアプローチに大きく舵を切ったメジャー2nd。
ジム・オルークがこの年の年間ベスト10に選出したというエピソードが残っている。

前作とは打って変わって内省的でシリアスなトーン。朝日さんの作品で一番尖ってる。フィッシュマンズがいた時代という感じがある。
たぶんコアな音楽ファンにはこれが最も受けがいい。この時代の邦楽特有の尖った才能が閃く瞬間をうまくパッケージにできた作品の1つだと思うんだけど、いまだにちゃんと評価されてない感じが強い。

音像の広がりや奥行きや立体感がそこらのポストロック調ポップスと一線を画していて、音の1つ1つが徹底的に考え抜いた上で置かれているような緊張感が漂ってるアルバム。
ジャンル的にはポストロック、ノイズ、エレクトロニカ、ループ、アンビエントとサウンドの多彩さは健在なものの、それ以上にアルバムを通した完成度の高さが光っている。

さかさまパラシュート(1998)

2ndアルバム収録『さかさまパラシュート』のシングルバージョン。
僕が朝日さんで一番好きな曲です。唯一無二の浮遊感をもつ涼しく透明感のある名曲。

番外

Apeiron(1996)

インディーズレーベルでの1stアルバム。当時1万枚のセールスがあったらしい。
瑞々しくてフレッシュながらこの時点で既にスタイルが完全に完成されている。
これもメジャーの2作と同じくらいよく聴いたんだけどサブスクにはない。

CDは今でも公式オンラインショップで売られてる。40%オフ。

asahi-chikuon online shop

だいすき(2001)

朝日美穂企画の岡村靖幸トリビュートからシングルカットされた『だいすき』のカバー。
キュートな名カバー。

HOLIDAY(2002)/ホリアテロリズム(2004)

自主レーベルを設立しての最初の2枚。これもよく聴いた。
サウンドの多彩さはそのままにいい意味でのインディーポップっぽさが出ているのが良いです。
ひねくれたポップスが並ぶ中でストレートな名曲『未完成の映画』がむしろ浮いてるんだけどこれが非常に好きでずっと聴いてる。

ひつじ雲(2013)/島が見えたよ(2020)

この世代のアーティストのその後を追跡していて驚かされるのは、およそ20年が経った現在でもなんらかの形で音楽活動を継続している人が大半なことです。
NHK「ドキュメント72時間」で気付けば10年以上にわたって主題歌が使われ続けている松崎ナオや、2018年になってメジャーに復帰したfra-foaのボーカル三上ちさこのような人すらいる。

朝日さんもまたコンスタントに活動を継続している人で、少なくともここ10年くらいは毎年何かしらのリリースやライブがある。「あの人は今」となったことは一度もない。
直近の2枚もいまだに新しいサウンドを入れ続けている(最新作はラップとかやってる)。表現をする人というのはすごいなと思う。こうして過去の作品にもアクセスしやすくなったし、何かいい効果あるといいですね。