カテゴリー: メンタルヘルス

池田暁史『メンタライゼーションを学ぼう—愛着外傷をのりこえるための臨床アプローチ』

年始のメンタルの不調から精神医学の本を読み始め、心的外傷や境界性パーソナリティ障害へと関心を移してきたわけだけど、この本が1つ到達点になった気がする。今まで読んできた本だとどんなによい本だと思えてもどうしても感覚的に1%のしこりやもやが残っていたのを綺麗に霧消させてくれた感がある。

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令和はトラウマの時代になる

眞子さまが複雑性PTSDを公表された。
ただ実質的には一般的に「適応障害」と診断される症例に近いんだと思う。「複雑性PTSD」はまだDSMに載っていない。まあいずれにしてもトラウマ(心的外傷)が問題なのは間違いないし、この1件でアダルトチルドレンや発達障害みたいに注目されることになるのかもしれない。どこかで「平成は発達障害の時代だったが、令和はトラウマの時代になるのではないか」という文章を見たのを思い出す。

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ポリヴェーガル理論・三木成夫・吉本隆明

https://en.wikipedia.org/wiki/Polyvagal_theory

https://book.asahi.com/jinbun/article/14124022

 トラウマ関連の理論で最も関心を惹かれたのがポリヴェーガル理論だった。
 これは主に自律神経に関する理論で、1990年代にステファン・W・ポージェスによって提唱された。元々精神医学には直結していない?ところで編み出された理論だったけど、発表後にトラウマ専門医に非常に高く評価されたことで普及したという経緯があるよう。

 ヴァン・デア・コークの大著ではトラウマ現象を身体的メカニズムに還元して説明する節でポージェスを引用していて、非常に高い評価を与えている。自律神経は脳と身体器官を繋ぐ重要な役割があり、簡単に噛み砕けば精神的で非実体的なものにも思える「ストレス」が、どのように内臓のような実体的なところにダメージを与えるかにおいて無視できない位置にある。このあたりは熊野さんの新著にも記述がある。特に関心を惹かれるのは免疫系の反応で、調べるとここはかなり一般常識を越えたような働きが見られる。

 一般的な自律神経の理論では交感神経と副交感神経の2つに分かれ、それぞれがアクセルとブレーキの働きを担う。特に重要視されるのは、人間が危機や危険に直面したときアドレナリンを分泌させ体を緊張状態にする交感神経の働きで、「闘争/逃走反応」と呼ばれている。副交感神経はこの逆で、体を弛緩させ、消化などを司っている。
 そもそもなぜ精神医学で自律神経が重要なのかというと、脳のスキャン画像のようなものとは別に「動物の一種、あるいは哺乳類の一種としての人間」としてアプローチするのが大きいよう。哺乳類でも体や器官は同じものがあるので、その類推から種々の反応を説明できる。そもそもこの闘争/逃走反応のような今でも一般的なものとして受け入れられている自律神経の理論は遡るとチャールズ・ダーウィンが最初に唱えたものらしい。

 さて、ポージェスは自律神経の理論を三段階に分類している。ポージェスは特に哺乳類の一種として人間を捉えていて、人間の自律神経をさらに3つの迷走神経に分けて説明している。
 まず人が驚異を感じたとき、その反応の最初の段階は周囲の人々に助けを求める「社会的関与」に向かう。これを司っているのが「腹側迷走神経」で、これは進化の順番では最も新しく、哺乳類のみにみられるものだとされる。ポージェスは腹側迷走神経が人間の社会的な種々の働きを司っているとしている。
 周囲の人々に助けをえられなかったり、誰もいない場合に使われるのが第二段階の「闘争/逃走反応」で、ポリヴェーガル理論でもこれは交感神経によって担われている。ポージェスはこれを神経系の進化において2番目に古いものとしていて、魚から見られるとしている。
 そして、最後に脅威に対応しようがなく、もはや逃れられない場合は、野生動物が仮死状態になるときに使われる「背側迷走神経」によって、「凍結(凍りつき)」反応が起こる。これは進化の順番では最も古く、シーラカンスなど極端に動きの少ない生き物に備わっているそう。

 と、長々と書いてきたけど実は個人的にはやや懐疑的で、ロマンはあるけど実証性は微妙じゃね、とか思ってたりする。海外フォーラムには(機械翻訳で読んだだけだけど)、論文になっているのはほとんどが精神医学領域で、生理学や精神科学ではあんまりないよという指摘もある。

https://www.researchgate.net/post/After-20-years-of-polyvagal-hypotheses-is-there-any-direct-evidence-for-the-first-3-premises-that-form-the-foundation-of-the-polyvagal-conjectures

 ポージェスもあくまで理論というようなことを言っているらしいので、1つの仮説的な説明モデル、くらいに考えといたほうが良さそうは気がする。

 さて、そんなポリヴェーガル理論だけど、僕はこれに非常によく似た理論を知っている。

 解剖学者・三木成夫である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%9C%A8%E6%88%90%E5%A4%AB

 中公新書の『胎児の世界』が有名だけど、三木成夫もまたヘッケルの学説などをベースに人間の身体を進化の流れで捉え、心身問題を脳ではなく内蔵や身体によって説明するきわめて独特な理論あるいは思想を作り上げた。
 出版されている本では津田真人『「ポリヴェーガル理論」を読む -からだ・こころ・社会』あたりが三木成夫にも触れているっぽいんだけどちょっとバカ高すぎるしこれ以上深入りする気にもあんまりなれないのでスルー。

 そして、この三木成夫の理論を高く評価している人がいた。吉本隆明である。
 吉本には共同幻想論と並ぶ(ということになっている)大著に『心的現象論』というのがあり、これはタイトルからわかる通り吉本流の心の理論で、フロイトやマルクスや精神科学などをごった煮にしたあまり評価されていないと思われる仕事。僕もほぼわからない。ただ吉本隆明の思考の癖がわかっているとなんとなく全体のモチーフのようなものはわかる。

 そして、晩年の吉本がどういうわけかこの心的現象論の補助線として導入したのが、三木成夫の内臓の働きによって心を説明する理論だった。
 吉本は本当にずっと読んできたけど、これだけは本当によくわからなかった。年取って耄碌したと言ってしまうのは簡単だけど、それにしたって三木成夫の理論の何が吉本さんにとってクリティカルだったのかはずっとピンと来てなかった。

 しかし、トラウマから入ってポリヴェーガル理論に行き着いたことでなんとなくそこが一本の線に繋がった。
 心的現象論は共同幻想論の土台となる自然哲学のような位置づけにあり、人間の心理的メカニズムを説明する。
 そして、吉本隆明が課題としたのが戦争だったからだ。共同幻想論は最初の章で遠野物語を引いて吉本が入眠状態と呼ぶ一種の集団催眠のような現象を扱っている。言ってしまえば日本国民全員が異常な精神状態だった時代。その心理を説明するためには認知科学のようなモデルではなく、精神医学が扱うような。そしてそれには内蔵や神経系のによって説明される、動物としての人間を扱うモデルのほうが説得力があると思われた。
 そもそも吉本隆明がマルクス主義者の唯物論者なのでこういったものにこだわっている節もあるけど、その因果関係も逆なのかもしれない、そんなことを考えてた。


EMDRについて

今日は夢で古城?のような場所を歩いていて、部屋1つ1つごとに安全を確認して最後に城が安心を得て最後に窓から外を見て目が覚めるというあまりにも今の心のメタファーすぎる内容で起きてちょっと笑った。

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マーシャ・リネハンが気になる

マーシャ・リネハン – Wikipedia

精神医学は治療者と患者の関係性や、治療者が元患者であることの是非などが議論になることが多いらしい。そして後者の例としてリネハンが挙げられているのを何度か目にしてかなり興味を惹かれてる。

リネハンは自身が若い頃境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者だった経験があり、そして後年自らBPDの治療法として弁証法的行動療法(DBT)を開発したという経歴を持っている。

境界性パーソナリティ障害は自傷行為や自殺衝動を伴うことが多く、リネハン博士の腕には今も自傷の跡がある。DBTはそんな当事者目線のプログラムが多数盛り込まれていて実践的な治療法だとか。

Expert on Mental Illness Reveals Her Own Struggle – The New York Times

2020年には自伝が出ている。ディープラーニングに突っ込んだら読めるかな。

Amazon | Building a Life Worth Living: A Memoir (English Edition) [Kindle edition] by Linehan PhD, Marsha M. | Memoirs | Kindleストア

あとTwitterもやってる。

(@DrLinehan) / Twitter


べッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』

トラウマ関連で最初に読んだのがべッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』。おそらく現在手に取りやすい一般向けの概説書では最もメジャーだと思われる。著者のヴァンデアコークはハーマンの『心的外傷と回復』の序文にも名前が載っているトラウマ研究の大家。
分厚いけど読みやすい良書だった。筆致も当事者を励ますような目配せが見て取れて精神が不安定なときでもわりと落ち着いて読めた。

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ジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』

トラウマ研究の古典中の古典らしい。あまりにも筆致が生々しく真に迫りすぎていて読んでると普通に気分が滅入ってくるのでまともに読めてない。原著の出版は1992年、翻訳は1996年。

中井久夫先生による訳者解説がまだどうにか読める。それでも訳業の過程で自らのいじめ体験や戦争体験が連想されていってまったく翻訳が進まなくなっていった旨が書かれている。
日本は阪神大震災によってPTSDが周知されるようになったらしく、1995年当時神戸大学にいた中井先生は身を持ってPTSDを知ることになったらしい。その当時の中井先生を持ってしても阪神大震災ですらまだ序の口とまで人為性のPTSDの深淵に戦いている様子が記されている。

それにしても「トラウマ」の言葉の通りの良さに対して正式に診断名としてPTSDが認定されたのが信じられないくらい最近なことに驚く。1970年。


バタフライハグ

今日は調子が悪かった。元々のストレス耐性値がげきよわなのでしょうがないやね。

呼吸と並んで短時間のセルフケアに使ってるのが、EMDRから派生したという両腕を胸の前で交差して交互にタップするバタフライハグという方法。

研究もあるみたい。